混ぜるなキケン!
13話:この世に敵のある限り…
(前回→「12話:俺の使命、俺の宿命…」)
「よくやった、ユキバンバラ、ミズバンバラ」
帝王バンバは、アジトの奥深くから、モニターに映る2体に労いの声をかけた。テレパシーで。
彼は満足だった。丸目豪作の変身した新たなサナギマン、その名もサナギマンGの捕獲に成功したのだ。ユキバンバラが凍結させ、今、その監獄 兼 墓標である分厚い氷塊を作りつつある。ユキバンバラ自身が同化して。
渡五郎も既に捕らえてあった。これで、邪魔者はキャプテン・サラーと少年同盟、それにサブローぐらいのものだ。
キカイダー兄弟は、既にハカイダー部隊が捕らえていたが、キカイダーはサブローに倒されている。ゼロワンをボスハカイダーが どう動かすか、バンバには興味があった。
それに、サブローとは別の機体であるボスハカイダーの事も気になった。あのボスハカイダーの正体は? その目的は何か? そして、ジャイアントデビルの設計図よりも重要なものとは…?
「どこに放り込む?」
氷の棺と一体化したユキバンバラが、ミズバンバラに尋ねる。
「渡五郎の隣で良いだろう」
「そうだな」
ユキバンバラは、すぐに同意した。他に選択肢は無いだろう。ユキバンバラとて、試しに聞いてみただけなのだ。
「おい、ファントム兵士。この氷塊を例の所に置いて来い」
ぞんざいな口調で、ミズバンバラがファントム兵士に命令する。
「手荒に扱うな。丁重に、丁重に、な」
ユキバンバラが、氷の中から語りかけた。まるで、サナギマンGが語りかけているようだ。
「ハイル!」、「ハイル!」
飛騨から山道を飛ばし、愛車「白いカラス」を駆って関東に急ぐサブローの前に、ハカイダー部隊のアンドロボット達が飛び掛ってきた。
「ふん、どうしても行かせたくない つもりか」
サブローは右手でバイクのアクセルを吹かしたまま、左手にナイフを構える。別名は「破壊剣」。短剣と呼ぶには短すぎたが、威力は劣らない。
彼は左手で薙ぎ払うようにアンドロボットを蹴散らせつつ、先を急いだ。兄のゼロワンが捕らえられているハカイダー基地を目指して。
「さあ、入れるぞ」
先頭に立つファントム兵士が、テン・キーを操作してロックを解除し、重いドアを開ける。4人がかりで分厚い氷の監獄を抱えるファントム兵士たちが、その先導に続いてドアを潜った。中には、同じ大きさの氷塊が有り、中にはサナギマンこと渡五郎が閉じ込められていた。今、彼らが抱えている氷塊と、全く変わらないシチュエーションである。
「バカな連中だ。新人類帝国に敵う訳は無いのに」
先導するファントム兵士が、先に入っていたサナギマンを侮辱する。
「案内ご苦労! チェストぉ~ッ!」
その時、サナギマンGの目が光った。同時に、彼を捉えている氷塊が爆発する。5人のファントム兵士は、その爆風と破片に よって吹き飛ばされ、大きなダメージを負い、意識を失った。それと自覚する間も無く。
「探すのに飽きたんで、ワザと捕まったんじゃよ」
サナギマンGは、そう言うや足元の氷塊を見下ろした。ユキバンバラの はずの それは、全く反応を示さない。
「先のツチバンバラ同様、内側から固めてやったんじゃ。悪く思うな」
サナギマンGは、そう言うや氷塊の中のサナギマンに向かった。
「さぁ、五郎。助けて やるけんの」
そう告げた瞬間、目の前で氷塊が爆発した。
「チョウリキ・ショウライ!」
爆発した氷塊の後には、何も残っていない。その声は、ドアの向こうから聞こえてきた。
「おお、無事じゃったか、五郎?」
駆け寄るサナギマンG。そこには、イナズマンが立っていた。
「ああ。だが、変転するエネルギーを溜めるのに苦労した。それに、この部屋は…」
と言って、イナズマンはドアの奥を指差した。
「…超能力を遮断する壁に囲まれていた。豪作にテレパシーを飛ばすのが やっとで、とてもテレポートは出来なかったよ」
そう言うと、イナズマンはサナギマンGの手を取った。両者はガッチリと握手した。両手を使って。
「ええい、バカもの共め! 油断しおって! なぜ、別の牢へ入れなかったのだ?」
アジトの奥では、中継を見ながら帝王バンバが怒り狂っていた。部下の迂闊さには、怒り心頭に達する思いだ。
「出ろ、ミュータントたち! イナズマンとサナギマンを捕らえるのだ!」
バンバは指令を下した。今なら、まだイナズマンのエネルギーはチャージし切れていない はずである。
「脱出するぞ、豪作!」
「おう!」
イナズマンが先導し、彼らは真っ直ぐに走る、目的地に向かって。イナズマンの触覚がピクピクと動き、目的地を指している。指針が間違っていない事は明白だった。
その行く手を、ファントム兵士の群れが遮る。だが、彼らの敵では無く、次々に投げられ、あるいは殴られ、蹴散らされていく。
「バンバラ~!」
突如、天井から多量の砂が舞い落ちる。サナギマンGの頭上に。驚いた彼は短い悲鳴を上げ、それを聞いてイナズマンは振り返った。
「豪作!」
「ふふふ、オレはスナバンバラだ。このまま、コイツを窒息死させてやる」
サナギマンGを被い尽くした砂の塊りから、不気味な声が響いてくる。
「させるものか!」
だが、構えたイナズマン目掛けて、多量の石ツブテが飛んでくる。
「バンバラ~!」
石は一つに合体し、イシバンバラの姿となった。
「このイシバンバラが相手だ、イナズマン!」
イシバンバラは、全身を多量の石に分裂させ、嵐の様にイナズマンに襲い掛かる。
「イナズマ旋風返し・チェスト!」
だが、その分裂した石ツブテの群れは、イナズマンの能力に よって押し返された。サナギマンGの方向に。
「行ったぞ、豪作!」
イナズマンの声に、
「ゴウリキ・セメント固め・チェスト!」
サナギマンGが叫び返す。彼の全身を覆う砂に、石ツブテが次々に くっ付いていく。そして…。
「ゴウリキ・ショウライ!」
の掛け声で、砂と石の塊りは爆発した。
「ワシは大地の戦士じゃ。砂や石の攻撃など効くものか」
接着されたまま爆破され、破片となって転がるスナバンバラとイシバンバラの残骸を見下ろし、サナギマンGは駆け出した。既にイナズマンは先行している。
「見えたぞ。ゴー、ライジンゴー!」
窓から飛び出すなり、イナズマンがライジンゴーを呼ぶ。空飛ぶオープンカーは、すぐに雲間を縫って駆けつけ、彼を運転席に迎えた。
「よっこいしょ!」
続いて飛び降りたサナギマンGが、助手席に収まる。
「敵に背を見せるのは気が進まんが…」
彼は背後のアジトを振り返りながら、悔しそうに呟いた。
「そう怒るな、豪作。オレのエネルギーは、まだ十分じゃない。それに、敵の手の内に有っては、罠を警戒しなくちゃいかん」
イナズマンが なだめた その時、ライジンゴーが大きく揺れた。着弾したのだ。
「おおっ?」
驚いて下を見た2人の眼には、ハカイダー4人衆と、配下のアンドロボットたちが映っていた。ボスハカイダーとレッドハカイダーは、ハカイダー・ショットとミサイル・ボウガン──別名、マシンガン・アーチェイリー──で銃撃してくる。
「五郎、あいつらは?」
「ハカイダーとか言う連中だ。しかし、黒いのは初めて見るな」
そう説明したイナズマンを、別の射手が狙っていた。アンドロボットたちの背後で。それは、左手首に銃を仕込んだゼロワンだった。
(つづく)
12話:俺の使命、俺の宿命…
(前回→「11話:胸の回路に指令が走る…」)
「何をするっ、キカイダー?!」
関東地方へ急ぐサブローが、山中を愛車「白いカラス」で通りかかった時、あの懐かしいジローのギターの調べが聞こえた。崖の上でキダーを爪弾くキカイダーに声を掛けたサブローだったが、返ってきたのはギターからの銃弾だった。
「そうか、何かの回路で洗脳されているんだな?」
サブローはギターの銃弾を交わしつつ、岩陰に隠れた。
「ハカイダー部隊に捕らえられた、と聞いていたが…やはりな」
サブローは下唇を噛んだ。今のサブローには、ゼロワンと同等の良心回路が組み込まれてある。しかし、ゼロワンの それをコピーしてまで組み込んでくれた兄、ジローは、今や敵として立ちふさがっていた。
「フフフ、見たか。ダークの開発した服従回路(イエッサー)の前には、良心回路など、物の数では無いわ」
ハカイダー基地の一つで中継を見守るボスハカイダーは御満悦だった。それを見ている3人衆の心中は…。
「まるでマシンガン・ギターだ」
サブローは呆れた。ダダダダダ、と、ギターのヘッドからは、絶え間なく銃弾が降り注ぐ。
「さぁて、どうするか?」
口では言うものの、彼の顔には笑顔が浮かんでいた。
「こっちだ、キカイダー!」
素早く崖の上に躍り出たサブローは、口笛を吹き始めた。
「五郎、どこじゃい?」
ライジンゴーの口から生やしたドリルで壁を打ち破り、サナギマンGは新人類帝国のアジトに乗り込んだ。渡五郎はサナギマンの状態で捉えられ、分厚い氷の監獄に監禁されている。
助けに来たサナギマンGは、丸目豪作が変転した姿だった。彼はエノグバンバラに されそうになった青年を介してバンバ細胞に感染したが、持ち前の根性で操り人形となる事を拒み、サナギマンの姿に変わったのだった。
「ヒャアー!」
掛け声で鼓舞しつつ、ファントム兵士が束になって襲い掛かる。その手の鋭いカギ爪が、一斉にサナギマンGの皮膚に刺さった。
…かに見えたが、実際はカギ爪が歪み、あるいは砕けただけ であった。
「どんなモンじゃい! ワシの装甲には、そんなナマクラは通用せんわい!」
勝ち誇るサナギマンGは、腕を振るい、足を振り回し、当たるを幸いにバッタバッタと兵士を薙ぎ倒していく。
「五郎!」
いくつの部屋のドアを破っただろう? サナギマンGの呼びかけも虚しく、五郎の姿は見つけられない。だが、このアジトに居る事は間違いないのだ。それは、五郎のテレパシーを受信しているから間違いない。
「バンバラ~!」
サナギマンGの目の前に、グググググッ、と水が盛り上がる。
「なんじゃい?」
目を丸くするサナギマンGの前で、その塊りはミズバンバラに変身した。
「オレはミズバンバラ。渡五郎を捕らえたのはオレだ。お前もオレが捕らえてやる!」
そう言うや、ミズバンバラはサナギマンGに抱きつこうと襲ってきた。
「ナマイキな! チェスト~!」
サナギマンGは、すかさず右の拳で打ちかかる。だが、その拳は空を、いや水を切っただけだった。
「こりゃあ?」
またも目を丸くするサナギマンG。彼の拳は、液状化したミズバンバラの身体を貫通したのだ。水しぶきを上げて。
「死ね、サナギマンG!」
全身に返り血ならぬ返り水を浴びたサナギマンGの背後から、ユキバンバラが襲い掛かる。ユキバンバラは、その冷気でサナギマンGを凍結させようと言うのだ。渡五郎の時と同じく。
「なにを?」
振り向く間もなく、サナギマンGの全身は白く変色した。超能力・絶対零度。彼は瞬間凍結されたのである。
「♪♪♪♪~」
サブローの口笛が山間に木霊する。そのメロディは、キカイダーの動きを停止させた。
「むおっ? これは、どうした事だ?」
基地で見物しているハカイダー4人衆は訝しがった。
「ふん、オレの口笛は、ギルの笛と同じ効果を持っている。だが、これぐらいで動きを止めるとは、だらしが無いぞキカイダー」
一飛びでキカイダーの元へ降り立ったサブローは、糸の切れた操り人形の様にクタッと前のめりに倒れたキカイダーに寄り添った。
「しっかりしろ、キカイダー。お前には、良心回路が有るんだろ?」
キカイダーを抱き起こしたサブローに、
「う、うう…」
と、キカイダーは呻いただけだった。
「気を確かに持て!」
励ますサブローに、
「サブロー…良かった、目を覚ましたんだな」
と、キカイダーは安堵の声を漏らした。
「しっかりしろ、兄貴。アンタには、良心回路が付いているんだろ?」
「うう…ダメだ、ボスハカイダーの取り付けたイエッサーが胸に有る限り…」
キカイダーは目を点滅させた。それは、苦悶の表れなのか? それとも…?
一瞬の間を置き、キカイダーはサブローをドン、と跳ね飛ばした。
「仕方が無い。やるか、キカイダー?!」
サブローは、左足のブーツからナイフを引き抜いた。そのまま左手に構える。逆手で。
しばし、沈黙が有った──。
「いくぞ!」
サブローの気合一閃、両者は駆け寄った。そのまま交錯し、すぐさま離れる。
ドサリ、と、ややあって倒れたのはキカイダーだった。その胸元には、深々とサブローのナイフが突き立っている。
「キカイダー…こんな形で決着を付けるとは、思っても いなかったぜ…」
サブローは、しばらく その傍らに佇んでいたが、やがて歩き出し、「白いカラス」に跨った。まだ、イチローが敵の手に落ちたままのだ。
(つづく)
11話:胸の回路に指令が走る…
(前回→「10話:ゴウリキ・ショウライ!」)
「派手にブッ飛んだモンだな」
大量の瓦礫を押しのけ、サブローが身体を起こし、立ち上がった。黒いツナギは爆風で汚れているものの、破れや ほころびは見えない。どうやら特別製のようだ。
「あ…ありゃあ、ワシの寺が…」
サブローの掻き分けた瓦礫の下には、地下の防空壕への出入り口が見える。そこから顔を覗かせた風天おしょう は、目を丸くして嘆いた。
「どうせ、オンボロだったでショ」
続いて出てきたガンモこと百地頑太が、カメラを下げたまま、ノンキな声を出す。
「それにしても、地下壕が有るなんて、シャレてるジャン」
「お蔭で助かったよ」
彼の後から、若い女性のミサオと、男の子のヒロシが飛び出してくる。
「これは、昔の防空壕じゃよ。…と言っても、戦争なんて、お前たちにはピンと こんじゃろうが」
風天おしょうは、目を粒ってナムアミダブツを唱えた。ここは、飛騨の山奥にあるミミズク寺である。と言っても、サブローがファントム怪人を倒すために、寺の建屋は爆破されてしまったが。
時に昭和49年。敗戦から30年近くが経ち、その傷跡の多くは見えなくなっていた。ヒロシは もちろん、ミサオとガンモも戦後生まれだろうし、おしょうの言葉の重さは、2人には伝わらなかっただろう。
「それで、これから、どうする?」
おしょうはサブローを見た。かつて光明寺博士が製作に加担し、キカイダー抹殺の為に生まれてきた戦士。それが、デストロンに再生されてV3暗殺の使者として蘇り、再び眠りについていたのである…「完全な良心回路」を備えて。その彼が目を覚ましたのは、女性と子供が危機に陥ったからであった。その危機を救った今、彼は、どう動くのだろうか?
「さっきの怪人の話じゃ、兄貴たちはハカイダー部隊の手に落ちたと言うぜ。なら、それを助け出すまでだ」
サブローの顔に曇りは無い。その言葉にウソは無いようだ。キカイダーの取り付けた良心回路、すなわち「光明寺の造ったゼロワン用 良心回路のコピー」が作動しているのは間違いないようだ。
「それに、オレの名前に泥を塗られて、黙っては おれん」
サブローは、険しい目で遠くを見つめた。そう、あのボスハカイダーは、何者なのだろう? サブローは、ココにずっと眠っていたと言うのに。
「これを持って行くが良い」
風天は、袈裟の懐からハーモニカを取り出した。
「これは?」
受け取ったサブローが尋ねる。凝ったデザインであり、安物とは思えない。
「それは、光明寺が送ってきた物じゃ。いつか、お前が目覚めるかもしれない、と言ってな」
光明寺博士は、彼の教え子である。今はスイスに避難しているが、交流は続いていた。
「スイス製か。道理でシャレた作りを していると思ったぜ。おしょう、礼を言って おいてくれ」
そう言うや、サブローは口笛を吹いた。すぐに彼の愛車…「白いカラス」が現れる。止める間もなく、彼は そのバイクに飛び乗った。
「あーん、アタシたちは、どうすりゃイイのヨォ?!」
ミサオが その背に問いかける。
「アンタたちは 巻き添えを食っただけだ、オレを手に入れる為のな。だから、好きな所に行くが良い。心配は要らん」
爆音を立てて白いカラスは走り去った。この時、ヒロシの背中に秘密がある、とは、誰も気づいていない…ミサオを除いて。
「さぁて、五郎ば探しに行くたい!」
空飛ぶライジンゴーの操縦席で、丸目豪作は気合を入れた。
「ゴウリキ・ショウライ!」
途端に、彼の姿はサナギマンGに変転する。
「うーむ…感じるばい。こっちの方角じゃな?」
サナギマン、いやサナギマンGは五郎の微かなテレパシーを受信し、ハンドルを切った。
「ええい、バンバ! キサマ、なぜ飛騨に怪人を やった?」
モニターの中で、ボスハカイダーが怒りの抗議をしている。
「お前のキカイダー兄弟 捕獲作戦を、完璧な ものに しようと思ってな」
バンバは、モニターに向かって答えた。無論、「本物のハカイダーを確かめる為」とは言えない。彼はデストロン首領から各資料を譲渡されていたが、その中にハカイダーの資料も有ったのである。
「ええい、余計な事を。文字通り、寝た子を起こして しまったでは無いか!」
ハカイダー基地で、モニターを睨むボスハカイダーの怒りも もっともだった。彼を取り巻くハカイダー3人衆も、彼の存在に疑問を感じている。指揮権すら危うくなるのでは無いか? その危機感を彼は肌で感じていた。その黒い肌で。
「起こるな、ハカイダー。なんなら、我がファントム帝国でカタを つけても良いが?」
バンバは、モニターに向かって言った。
「バカを言うな。3人がかりでも倒されたでは無いか?」
ボスハカイダーが嘲笑を上げる。どこから得たのか、素早く正確な情報だ。
「では、どうするのだ?」
バンバは彼に尋ねた。
「フン、キカイダー兄弟の事は、オレに任せておけ。三男もカタを つけてやるわ!」
モニターの向こうでボスは肩を震わせて笑った。その映像は、すぐに切れる。
「ううむ…同盟相手としては、やはり信頼性に欠けるな」
バンバは眉を顰めた。ボスハカイダーの傲慢さには、ついていけない ものがある。
「♪~」
山道で白いカラスを飛ばすサブローの耳に、耳慣れたギターの音が聞こえてきた。
「これは?」
バイクを走らせたまま、サブローが音のした方を見上げる。その方向には崖が有り、そして その上では、キカイダーがギターを弾いていた。
「キカイダー? 無事だったのか?」
安堵と疑惑の入り混じった視線を向けるサブローに対し、キカイダーはギターを向けた。そのヘッド部分を。
そこからは、銃弾が飛び出した。ズダダダダ・・・と。
(つづく)→「11話:胸の回路に指令が走る…」
10話:ゴウリキ・ショウライ!
(前回→「9話:暗闇色のスーツの下に…」)
「キサマ、サナギマン?」
病院の一室で、ツチバンバラが対峙しているのは確かにサナギマンだった。しかし…。
「いや、渡五郎はユキバンバラが捕らえた。今もファントム帝国で氷漬けに なっているはず?!」
ツチバンバラは、懐疑の目を向けた。眼前のサナギマンに対し。
「じゃあ、ワシは誰じゃい?」
サナギマンは腰に手を当て、胸を張って尋ねる。その声は、明らかに渡五郎とは別人のもの である。
「…判らん…。まさか?」
ツチバンバラが閃いた一瞬、サナギマンの鉄拳が飛んだ。
「サナギマンG、とでも名乗っておこうか」
得意げなサナギマン、いやサナギマンGの拳は、ツチバンバラの顔を砕いた。文字通りに。
「うむ、たあいないヤツじゃ」
拳を撫でながら、サナギマンGは不満げに漏らす。だが、それは自身の能力に満足しているからでもあった。
「甘く見るなよ、サナギマンGとやら」
砕けたはずのツチバンバラの顔が、ゆっくりと復元していった。まるで、フィルムを逆回し している かのように。
「おおっ?」
サナギマンGは驚いていた。相手の能力に、では無く、その不気味さに。
「我が新人類帝国には、そんなヤワな拳で絶命するようなミュータントは おらん」
再生した顔で、ツチバンバラは笑みを浮かべている。
「ならば、また打ち叩くまでじゃい! チェストぉーッ!」
サナギマンGは、2発、3発…と拳を繰り出す。しかし、その どれもがツチバンバラにクリーンヒットしながらも、その体表の土をヒビ割れさせ、土ぼこりを上げて皮膚を落としていくだけで、大きなダメージは与えている様子は無かった。
「フフフ、どうした、サナギマンG。くすぐったい だけだぞ」
ツチバンバラは、声を立てて笑った。侮蔑の笑みを。
「我はツチバンバラ。大地の化身だ。どうやら噛み合わせが悪かったようだな、サナギマンG!」
そう言うや、ツチバンバラはグニャリ、と全身を歪めた。そのまま床に落ち、そして…。
「おおっ?」
溶けたツチバンバラは、速やかにサナギマンGの足元に忍び寄り、その全身を包んだ。足元から。
「サナギは大地で眠れ。あとでゆっくりと洗脳してやる。我が帝国に持って帰ってな」
ミイラ状にサナギマンGを包み込んだツチバンバラは、勝利の笑みを浮かべた。その体表の一部に。
「ゴウリキ・ショウライ!」
途端に、ミノムシ状態のサナギマンGとツチバンバラが爆発する。爆煙がモウモウと巻き上がり、殻状の大きな破片が いくつも室内に飛び散った。不思議と、小さな破片は見当たらなかった。
「これは?」
比較的大きな破片の一つに、ツチバンバラの目が浮かび上がる。それは緩やかに蠢きながら、声を発した。
「ワシの身体から滲み出た絵の具で、お前の土を全て固めたんじゃ」
爆煙が晴れた後から現れた無傷のサナギマンGは、足元の破片を見下した。
「絵の具? やはり、キサマは…」
見上げるツチバンバラの破片に対し、
「サナギマンGは大地の化身じゃ。ツチなんとかじゃ、敵にも ならん」
サナギマンGは胸を張って答えた。答えに なっていなかったが。
「大地? では、サナギマンGとはグラウンド(ground)の意味か? 」
そこまで口にしたツチバンバラの目は、すぐに色褪せ、すぐに動かなくなった。
「Gは豪作(gousaku)のGじゃい」
変転を解いたサナギマンGは、丸目豪作の姿に戻った。
「バイトでセメントは扱い慣れておるからの。さぁて、新人類帝国に捕まっとる五郎を助けに行かにゃ、のう」
窓を開けた豪作の目に、空飛ぶライジンゴーの姿が飛び込んできた。
(つづく)→「11話:胸の回路に指令が走る…」
9話:暗闇色のスーツの下に…
(前回→「8話:戦え 我らの サナギマン…」)
「ボス、本当にジャイアントデビルの設計図は要らないんで?」
ハカイダー基地の一つで、シルバーハカイダーはボスハカイダーに尋ねた。
「フフ…良心回路を探してキカイダーの身体を探った時に、面白い物の記録を見つけたからな」
ボスハカイダーの表情が変わるものならば、彼は間違いなく邪悪な笑みを浮かべていただろう。3人衆には、その真意は図りかねたが、ボスの考える事だ、さぞかし悪どい事に違いない…と、誰もが思った。
ハカイダー部隊の傍らに控えるゼロワンとキカイダーは、ただ立ち尽くしているだけだった。人形のように。彫像のように。
「やあ、ヒロシくん、ミサオさん。…キミがガンモか」
黒い革ツナギの青年は、背後に庇う女性と子供、そして男性カメラマンに向かって、そう言った。最後の言葉は、やや軽蔑が混じっているようだったが、それは気のせい だろうか?
「どうして、私たちの名前を?」
「さっき、互いに呼び合っていた じゃないか」
視線をキリバンバラに向けつつ、青年は女性…ミサオに答えた。ここは飛騨の山奥。ミミズク寺の傍である。辺りには、濃い霧が立ち込めていた。
「じゃ、どうしてボクちゃんの名前を?」
ガンモこと百地頑太は、素っ頓狂な顔で尋ねた。
「兄貴から色々と聞いているからな。オレはジローの弟、サブローだ」
彼、サブローの自己紹介に、ガンモはホッ、と胸を撫で下ろした。イチロー、ジローの弟ならば、正義の味方に違いない。
「さぁ、早く逃げろ」
キリバンバラに向かいながら、サブローが促す。
「逃げるたって、ドコ行きゃイイのよォ?!」
ミサオが口を尖らせる。
「ミミズク寺に決まってるじゃないか」
当たり前だろう、と言う表情でサブローが答える。もっとも、その顔は背後の3人からは見えなかったが、声で察しは つけたようだ。
「あんなボロ寺、心細いじゃん」
「そうですとも、あのようなボロ…いえ、失礼。荒れ寺はレディには相応しく有りませんぞ」
ミサオの不満を、ガンモが肯定する。
「うるさい、ごちゃごちゃ言うな!」
サブローは一喝した。どうして、こう、人間と言うのは合理的に考えられないのだろう?
「ねぇちゃん、行こうぜ。サブローさんの言う通りにするしか無いよ」
子供…ヒロシがミサオの袖を引っ張る。
「えーい、仕方ないなあ。バッチイけど、しょうが無いか!」
ミサオはヒロシの手を取って走り出した。
「あっ、お待ちになって」
胸に下げたカメラを揺らしながら、ガンモが後を追う。
「さぁ、これで心置きなく戦えるな。答えろ、バケモノめ。何故あの人達を狙った?」
それを横目で見ながら、サブローがキリバンバラに向かって尋ねた。
「バカめ。あいつらは案内人と、オマケにしか過ぎん」
キリバンバラは、身体を揺すって笑った。
「あのカメラマンが お前の写真を撮りに来ると聞いて、お前を奪う為に来たのだ。もっとも、お前は眠っている、と聞いたのだが?」
「どうやら、目の前で女子供が危害を加えられそうになったから、らしいな。まったく、兄貴も余計な物を仕込んでくれたよ」
サブロー、いやハカイダーは、かつて結城丈二がデストロン基地で再生し、V3抹殺の使者として再起動したのだった。その後、光明寺博士がゼロワン用に造った「完全な良心回路」をキカイダーがコピーし、ハカイダーにも組み込んでいたのだ。だが、彼らは自我を目覚めさせる事は無く、キカイダーはミミズク寺の仁王像に彼らを隠したのだった。
後に、ハカイダー部隊がアキラ少年を狙った始動した際、ゼロワンは目覚めたものの、サブローは そのまま だったのである。
では…ハカイダー部隊を指揮するボスハカイダーは、何者なのだろうか?
「良心回路か。ロボットには邪魔な だけだろう。我が新人類帝国に来い、ハカイダー。我々の尖兵として、破壊活動に従事させてやるぞ。思う存分、心置きなく、な」
キリバンバラは、薄っすらと笑みを浮かべているようだった。
「お断りだな。オレが最も嫌うのは、束縛される事だ。これは、良心回路が入っても変わらんよ」
サブローは、ナイフを構え直した。
「フフフ、強がりを言うな。お前も2人の兄同様、我らが手中に納まるのだ」
「なんだと?」
こればかりは、さすがのサブローも顔色を変えた。
「我々 新人類帝国とハカイダー部隊の共同戦線で、キカイダー兄弟は捕らえた。ゼロワンからは良心回路を取り外し、二人とも服従回路を取り付けている。もう、タダの操り人形だぞ」
キリバンバラは、声を立てて笑った。低く、不気味な笑い声だ。
「そうか。ならば、オレが取り返すのみだ」
サブローは、そう言うやナイフを構え、キリバンバラに斬りかかった。
「バカめ。オレを誰だと思っている。キリバンバラだぞ」
キリバンバラは身体を霧に変換し、易々とサブローの攻撃を交わした。彼のナイフは空を切る。
「新人類帝国とは、バケモノの巣窟らしいな」
サブローは慌てる事無く、周囲の気配を探った。
「新人類、つまりミュータントだ。我らは、我がファントム帝国の中でも指折りの精鋭なのだ」
霧の中からキリバンバラの声が響く。しかし、それは どこからかは判らない。サブローのセンサーにも感知できなかった。
「だが、霧のままでオレを傷つける事も出来まい?」
サブローの挑発に、
「バンバラ~!」
と、別の声がしたかと思うと、一陣の風が吹いた。
「オレはカゼバンバラ。キリバンバラと同じく風の一族だ。オレの突風に耐えられるか、ハカイダー?」
新たな声の主は、そう言うや旋風を起こした。大気に同化したまま。
「フン、涼しいだけだぜ」
サブローは嘯く。だが、その顔に、身体に、突風によって小石や木片が飛び掛っている。
「こしゃくな。竜巻を起こして くれようか?」
癇癪を起こすカゼバンバラに、
「待て。オレが やってやる」
と、また別の声が制止した。
「バンバラ~!」
3つ目の声が叫ぶや、サブローの頭上で爆発が起きた。何も無い空間なのに。
「これは?」
「オレはガスバンバラ。いつでもガスを爆発させてやるぞ」
驚くサブローに、ガスバンバラと名乗った3人目が宣告した。
それを聞いた途端、サブローは翻り、脱兎の如く駆け出した。ミミズク寺の石段に向かって。
「フン、怖気づいたか?」
ガスバンバラの声が大気中から響く。同時に、濃い霧がサブローを追い始めた。霧は3色の濃度に分かれている。
「おしょう…頼むぞ」
そう呟きながら、サブローは驚異的な速度で石段を駆け上がっていく。それを追跡し、スルスルと後を追う霧。
サブローは本堂に駆け込むや、その板の間を注視した。ホコリだらけの中に、複数の足跡が浮かんでいる。それを目で追ったサブローの顔に、笑みが宿った。
「こんなところに逃げ込んで、どうする つもりだハカイダー?」
キリバンバラの声が響く。霧は本堂の周囲を取り囲み、速やかに中に入ろうとしていた。
「こうするのさ」」
サブローは、バン、と足を踏み鳴らした。途端に、天井から埃が舞い落ちてくる。
「なんだ、これは?」
カゼバンバラの声が不思議そうに尋ねる。
「粉塵爆発、ってヤツを試して みるのさ」
そう言ったサブローの胸で、閃光が走った。
「いかん、誘爆する…」
ガスバンバラの声は途中で かき消えた。
「オレの胸の回路には、電流や火花が走っているのさ。血の代わりにな。ハハハハハ」
爆発し、炎に包まれた本堂の中で、サブローの笑い声が響いていた。
(つづく)→「10話:ゴウリキ・ショウライ!」
8話:戦え 我らの サナギマン…
(前回→「7話:オレはロボット サイボーグ…」)
「フフフ…気分はどうだ、渡五郎?」
氷漬けのサナギマンを前にして、帝王バンバは尋ねた。テレパシーを使って。
「バンバ、殺すなら一思いに殺せ」
微動だに出来ない分厚い氷塊の中から、サナギマンがテレパシーで答える。
「フフフ…そんな姿になっても、まだ強がりを言うか?」
バンバは呆れたように声を漏らした。
「我々に協力する気は無いか、渡五郎?」
バンバは穏やかな口調で尋ねた。
「何を言う、帝王バンバ。お前、新人類帝国の野望になど加担できるものか!」
サナギマンは強い意思をテレパシーに乗せて回答した。
「なあ、渡五郎。何故お前は協力を断るのだ?」
バンバの口調は優しかった。
「人間社会を破壊し、新人類の帝国を築くなど、許される事では無い!」
サナギマンの意思は、鉄のように固かった。
「それが何故悪いのだ渡五郎? 弥生人が縄文人を滅ぼし、クロマニヨン人がネアンデルタール人を滅ぼしたように、我ら新人類が現人類を滅ぼすのは当然の権利、いや自然の摂理だ」
1974年、つまり昭和49年にあっては、バンバの前提も、あながち間違っては いなかった。
「少しばかり能力が優れているからと言って、他人を殺す権利は無い!」
サナギマンの口調、いや意思は、烈火のように燃えていた。
「しかし渡五郎、このまま愚かな人類に政治を任せていては、未来にあるのは破滅のみだぞ」
バンバの柔らかい口調には、不思議と説得力があった。
「そんなはずは無い! 私は人類の叡智を信じる!」
サナギマンは頑固だった。その固い皮膚のように。
「…しばらく、そこで頭を冷やすが良い」
バンバは穏やかな口調のまま、会見を打ち切った。
「豪作…豪作!」
耳元で誰かの声がしたようだった。
「五郎か?」
うとうと していた丸目豪作は、病院のベッドの上で目を覚ました。
「なんじゃ…夢か」
彼は、そう呟くと、再び眠りについた。
「豪作、聞いてくれ」
夢の中で、渡五郎が話しかけてきた。
「なんじゃ、五郎? ワシは眠いんじゃ」
豪作は、面倒くさそうに呟く、目を閉じたままで。
「聞いてくれ、豪作。お前は、バンバ細胞に感染している」
「なんじゃ、バンバ細胞って?」
あくびを しながら豪作が尋ねる。なんの気なしに。
「帝王バンバは、自らの細胞を植え付ける事で、ミュータントを増やす能力を身につけた」
「そりゃ大変じゃ」
しかし、しょせんは夢の中の出来事である。豪作の声はノンビリとしていた。
「豪作、残念ながら私は脱出のチャンスを伺うだけで手一杯だ。次に新人類が出現したら、お前が皆を守ってくれ」
「おい、五郎、ワシには、そんな力は、ありゃせんぞ」
しかし、豪作の問に、五郎は断言した。
「あのエノグバンバラの成り損ないを見ただろう。お前がバンバ細胞に負けたら、お前も、ああ成るんだぞ」
「イヤじゃい。ワシは偉くなって、クニのオッカサンに楽させてやるっとよ!」
そこで豪作は目を覚ました。不気味な疼きにパジャマの前をはだけると、例の縞模様は渦になっている。豪作の脳裏にエノグバンバラの成り損ないの姿が浮かんだ。彼の全身の毛穴から、冷や汗が滲み出てくる。
「バンバラ~!」
サナギマン=渡五郎の予想通り、新人類は出現した。それも、豪作の入院している病院の中に。
「出てこい、新しい新人類」 ツチバンバラは、豪作の病室のドアをブチ破った。
その彼の目の前には、大きな繭が飛び込んできた。
「なんだ、この繭は? まあいい、新人類帝国に連れて帰るだけだ」
そう言ってツチバンバラが一歩、足を踏み出した時、繭は爆発した。
「うおっ? 何だ?」
うろたえるツチバンバラの顔前で、爆煙が晴れていく。そして、その中に人影が立っているのが判った。
「お前は…?」
口籠もるツチバンバラに、
「大地の戦士、サナギマン!」
と、その人物は名乗った。その姿は確かにサナギマンだった。だが、その声は丸目豪作のものだった。
(つづく)→「9話:暗闇色のスーツの下に…」
7話:オレはロボット サイボーグ…
(前回→「6話:正義の叫び…」)
「ねぇちゃん、不気味だね」
10歳くらいの男の子が、姉と思しき女性と共に歩いている。うっそうとした山の中、霧の漂う最中を歩くのは、大の大人でも気持ちの悪いものだろう。
「あの、もし?」 その時、二人の背後から声が掛かった。二人は驚き、キャッ、と悲鳴を上げた。 後ろを振り返った二人の目には、カメラをぶら下げた男が立っていた。その間の抜けた顔は、とても悪人には見えない。
「ブァーラバラバラ・ヴァン・ブァ~」
アジトの奥で、バンバはご満悦だった。何故なら、目の前に、氷漬けのサナギマン=渡五郎が居るからである。
「喜んでいるようだな、バンバ」
モニターの向こうから、ボスハカイダーが声をかける。
「お前もな、ハカイダー」
バンバの声には、明らかに喜色に満ちている。それはそうだろう。彼らは宿敵を捕えたのだ。ハカイダー部隊は、キカイダーとゼロワンを捕獲していた。
「だが、ツチバンバラとスナバンバラの協力がなければ、キカイダー兄弟を捕まえられたかどうか判らんぞ」
「フン、何を言うか。キカイダーにはギルの笛、ゼロワンにはオレのサタンダークネスが有る」
ボスハカイダーの声は自信に満ちていた。過去に何度もキカイダー兄弟に逃げられていると言うのに。
「では、約束通り、ギルの記憶を蘇らせてやろうではないか」
「いや、待て」
帝王バンバの申し出に、ボスは異を唱えた。
「もはや我らに敵は居らん。ジャイアントデビルは後回しでも良いだろう」
ボスは余裕のあるところを見せた。それはバンバの気に入らないところだった。詰めが甘いのではないか? そうやって勝機を逃した例は、いくらでもあるだろうに…。ボスハカイダーの慎重さにかける態度は、バンバの不信感を買った。やはりハカイダー部隊の本質は狂気にあるのかも知れない。同盟の相手としては不十分な相手のようだ。
もっとも、それを明言する気はなかったが。少なくとも、今の段階では。
「さあ、目を開けろ、キカイダー!」
ボスハカイダーは、基地の一つで命令を下した。鎖で縛られ、天井から吊り下げられているキカイダーに向かって。キカイダーは、すぐさま目を光らせた。
「ここはどこだ、ハカイダー?」
「フン、偉そうな口を叩くなキカイダー。お前はもはや、オレの操り人形にしか過ぎんのだ」
ボスハカイダーは、キカイダーの顔前に指を突き付けた。
「なにっ? どういう事だ?」
訝しがるキカイダーに、
「フフフ…お前の胸の中には、これが埋まっているのだ」
ボスハカイダーが取り出したのは、親指ほどの大きさの、小さな部品だった。
「これは、かつてダークが開発した服従回路(イエッサー)だ」
「イエッサー?」
「そうだ、お前の良心回路を無力化する為の装置だ」
ボスハカイダーの表情は変わらなかったが、もし変わるものならば、笑みを浮かべていたに違いない。それも、邪悪な笑みを。
「バカな。私の心に、そんな小細工が通用するものか?」
そう言うキカイダーに、
「ふふ…確かにそうかもしれん」
ボスハカイダーは肯定して見せた。
「だが、ゼロワンは我が術中に落ちたぞ」
ボスハカイダーは仰け反って笑い声を上げた。
「にいさんが? 完全な良心回路を備えた にいさんが?」
キカイダーは驚いた。ゼロワンの良心回路は、光明寺博士の完成させた、完全な良心回路である。むざむざダークの技術に負けるとは思えなかった。
「バカめ、後付けね装置など、簡単に取り外せるわ」
ボスハカイダーは嘲笑していた。確かに、ゼロワンの良心回路は後付けである。元は良心回路を備えていなかったところへ、キカイダーが装備させたのであった。
「だが、キサマの回路は複雑すぎて、簡単には取り外せん。そこで拘束したまま、様子を見ていたのだが…」
そう言うと、ボスハカイダーはキカイダーを見つめた。
「…いつまでもこうしていても始まらん。ひとつ、試してみるか」
そう言うや、ボスハカイダーは壁際のコントロールパネルに近づいた。その一角には、ギルの笛が立て掛けてある。
「さあ、キカイダー、立て。立って右手を上げろ」
片手で笛を握りしめ、もう片方の手でスイッチを操作する。途端にキカイダーを縛る鎖は解けた。
「う、うう…」
キカイダーは短く呻いたが、程なく右手を上げた。
「フフフ…成功だ。よし、では跪け。膝をついてオレの爪先に口づけをするのだ!」
ボスハカイダーの声に、キカイダーは崩れるように跪くや、その足先に唇を触れさせた。
「へえ~、写真を撮りに、ねえ」
霧の中で、女性がカメラマンに話しかけている。
「そうなんですよ」
カメラマンは、でれでれした表情で答える。
「ゼロワンの出てきた仁王像を撮れば、ボクちゃんも有名になれるかも」
カメラマンは、俗っぽい願望を述べた。臆面も無く。
「ちぇっ、夢がねぇの」
男の子は、呆れたように口を尖らせる。
「こっちは、道に迷っちゃって。オマケに、変な声は聞こえてくるし」
女性は、顔に見合わずアネゴ肌のようだ。
「バンバラ~、なんてね」
男の子が声色を使う。
「おお、見えてきたもんね」
男の子に構わず、カメラマンが歓喜の声を上げた。彼らの顔前に、ミミズク寺が見えている。
「あれか。案内ご苦労」
霧の中から声が響く。霧は見る見る集まり、一塊りとなっていく。それはキリバンバラだった。
「うひゃあ!」
驚いたカメラマンは、腰を抜かした。
「ヒロシ!」
「ミサオねえちゃん!」
女性と男の子は、声を掛け合い、抱きあって怯えた。
「邪魔だ、バンバラ~!」
キリバンバラは、行く手を遮る形になった二人を、無造作に払おうと振りかぶった。
その時、寺の山門にある、無傷な方の仁王像が真っ二つに割れた。スカッ、と。
「待て、化け物」
像の中から現れた、黒ずくめの青年は、一飛びでキリバンバラの前に降り立ち、ヒロシとミサオを庇った。その左手には、鋭いナイフが握られている。
(つづく)→「8話:戦え 我らの サナギマン…」
| 青 | 赤 | 緑 | 橙 | 桃 | 水色 | 深緑 |
求めるものは自由、願うものは平和。嫌うものはダブスタ。
1967年生まれ。
「もぉ、サイド2の二の舞はゴメンだ!」も捨てがたい。

